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東京高等裁判所 平成5年(ラ)848号 決定

抗告人 甲野桜子

被抗告人 丙川松子 外2名

主文

一  原審判主文2の(4)、3の(1)及び(2)を次のとおり変更する。

1  同2の(4)の「電話加入権」を「電話加入権(代金)」に、同主文で引用する原審判別紙遺産目録(一)の〈7〉の「電話加入権5口」を「電話加入権1口の代金50,000円」に改める。

2  同3の(1)及び(2)の各「14,000,000円」を「11,500,000円」に、各「7,500,000円」を「6,300,000円」に改める。

二  その余の本件抗告(鑑定費用の負担に関する分を含む。)を棄却する。

理由

第一抗告の趣旨

一  原審判を取り消す。

二  本件を東京家庭裁判所八王子支部に差し戻す。

第二当裁判所の判断

次のとおり付加、訂正するほかは、原審判の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

一  原審判5枚目表1行目の冒頭に「(1)」を加え、同9行目の次に改行して次のとおり加える。

「(2)抗告人は、本件遺産(二)の1の土地の購入代金105万円のうち50万円は被相続人亡花子が支払ったが、残りの55万円は抗告人が支払ったのであるから、右土地につき抗告人が105分の55の共有持分を有していると主張するが、記録によれば、同被相続人が遺産として預貯金約1500万円を遺していることなどからすると、右土地を購入した昭和42年当時も右土地を購入する程度の資力を有していたと推認しうるし、売主乙山亀夫から昭和42年4月16日に「甲野花子」宛に50万円、同年7月20日に「甲野」宛に55万円の各領収書が発行されていること(右の「甲野」は被相続人亡花子を指すものと考えられる。)、右土地の登記名義は同被相続人とされていることからすると、右土地は同被相続人がその代金全額を支払って買い受けたものであり、抗告人が右主張の55万円を支払ってはいないと認めるのが相当である。右認定に反する資料(丙20、26、27、抗告人の原審供述等)はにわかに採用することができない(なお、右資料のうち、丙20号証については、当審になって初めて提出されたことも考慮して右判断をした。)。したがって、右主張は、採用できない。

(3) 記録(原審鑑定の結果)によれば、本件遺産のうち、各不動産の平成3年12月時点における価格は次のとおりであることが認められる。

(なお、本件遺産(一)の〈1〉の土地は、間口約11.2メートル、奥行約25メートルの長方形状の土地であるため、これを2分することを想定すると、その価格がかなり低くなるところ、後記7のとおり、右土地は抗告人及び被抗告人梅子の両名が持分各2分の1で共有することになるが、両名が右土地を2分することなく活用することが、両名の関係及び右土地の有効利用に鑑み、充分に考えられるので、右土地を2分することによる価格の低下は、右土地の価格を考えるうえでは考慮にいれない。)

本件遺産(一)の〈1〉の土地 1億9210万円

本件遺産(一)の〈2〉の土地   3340万円

本件遺産(一)の〈3〉の家屋     60万円

本件遺産(二)の〈1〉の土地   4950万円

合計 2億7560万円

抗告人は、当審において本件遺産(一)の〈1〉の土地の鑑定書(丙25)を提出するが、他の不動産の鑑定書を提出しないので、遺産分割に当たりこれを斟酌することは当事者らの公平を損うし、また、不動産の価格が時間の経過により変動するので、抗告のうえ抗告審で提出した鑑定書をそのまま採用することは原審判をそれだけで変更することになりかねないものであって相当とはいえないことなどに鑑み、右鑑定書は直ちにこれを採用することはできない。

しかしながら、平成3年12月から原審判時の平成5年7月15日までにも、また、それ以降本決定時までにも、土地の価格が大幅に下落し続けたことは、当裁判所に顕著な事実であり、このことを全く考慮しないのは相当とはいえない。そこで、本件記録に現れた一切の事情(右鑑定書)等を勘案して、右各土地については右の額から35パーセント減額した額が、右家屋については右の額が、本決定時の価格であると認める(なお、原審判も、調整金の支払額等からすると、右各土地につき20パーセント程度の減額を考慮していたものと推察される。)。

(4) 当審記録によれば、原審判別紙遺産目録(一)の〈7〉の電話加入権はもともと一口しかなく、抗告人がこれを買い取ったことが認められ、その代金は5万円とするのが相当である。したがって、抗告人は、本件遺産として右額の金員を保管しているものということができる。

(5) 抗告人は、被相続人らの葬儀費用、未払税金、相続開始後発生した本件遺産のうちの不動産の維持管理費用を含めて遺産分割をすべきであるというが、遺産分割の対象は相続開始時に存在し、かつ、現存する遺産を分割すべきものであって、これらの費用、債務等は、当事者間において本件遺産分割とは別途に精算すべきものであって、本件遺産分割の対象となるものではない。」

二  同6枚目裏1行目の「よって」の前に、「なお、抗告人は、右3の(2)のとおり本件遺産(二)の〈1〉の土地の購入代金105万円のうち、55万円は抗告人が支払ったとしたうえ、仮に、55万円の分につき共有持分が認められなくとも、右土地につき抗告人に105分の55の寄与分が認められるべきであると主張するが、右3の(2)で判断したとおり抗告人が右主張の55万円を支払ったとはいえないから、右主張は採用しない。」を加える。

三  同8枚目表7行目の「存在せず」の次に「(抗告人は、地代を支払った証拠として丙7、8、17の1ないし8を提出するが、これらは抗告人が経営する税務事務所の税務申告用に作成された可能性も否定できず、実際に地代が支払われたことを裏付けるには十分とはいえない。)」を加える。

四  同9枚目裏8行目の「現金等」を「現金電話加入権(代金)」に、同12行目の「現金等」を「現金、電話加入権(代金)」に改める。

五  同10枚目表4行目の「裁判所の鑑定」から同6行目の「綜合して」までを「右3の(3)で認定した本決定時の価格その他本件に現れた一切の事情を総合勘案のうえ」に、同6、7行目の「21,500,000円」を「17,800,000円」に、同7、8行目の「28,000,000円」を「23,000,000円」に、同8、9行目の「15,000,000円」を「12,600,000円」に、同11行目の「14,000,000円」を「11,500,000円」に、同12行目の「7,500,000円」を「6,300,000円」に改める。

第三結論

よって、原審判主文2の(4)、3の(1)及び(2)の一部は失当であるから、これを主文第一項のとおり変更し、原審判のその余の主文(鑑定費用の負担に関する分を含む。)は正当であるから、これに関する抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 三代川俊一郎 伊藤茂夫)

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